
1,500円(幻冬舎刊) |
「元気」をキーワードに読み解く人生哲学
本書は病んだ現代社会を「元気」に生きていくための指南書だ。「元気」などと聞くと、プラス思考を前面に出した前向きな内容を想像する向きもあるかもしれない。が、そこは五木氏のこと、そんな単純なノリになろう筈がない。氏曰く、「元気」とは「天地万物を生み出し、それを生かしているエネルギーの根元」のこと。我々はこの大きなエネルギーの一部を背負って生まれ、そしてその中へ帰っていくのだという。このスタンスから話は広がり、自分と自然の結びつき、いのちの行方、死との関り方など、東洋思想に裏打ちされた思索の数々が次々と披露されていく。読者はお馴染みのものであるはずの「元気」という言葉に導かれ、五木流人生哲学の世界へどっぷりと引き込まれていくことになるのだ。
五木流マイナス思考
作中目に付くのが、物事の悪しき側面をひたと見据える、五木氏ならではのマイナス思考だ。「人生は死にむかう旅である」など、一見ネガティブな言葉の裏に隠されているのは、ありのままの現実を受け止めるしなやかさ。「死を遠ざけることで人は元気になるのではない。死を常に感じていることが、生きる力になるのである」――死についてのこんなコメントからもわかるように、真の勇気と希望は、痛みを伴う現実を正しく受け止めることから生まれてくるのだ。そこには上っ面だけのプラス思考にはない、深い説得力がある。
元気に生きるための3つのポイント
五木氏は語る、根本的に怠惰で強い意志をもたない人間が頑張りつづけること、常に前向き志向で生きることは到底できないと。そして己も怠惰な人間だと自認した上で、次のような「元気」に生きるためのコツを挙げている。それは「諦める(=事実を事実としてはっきり見定める)」「観念する(=心身を生き生きと活性化する強いイメージを持つ)」「手放す(=一つの想念にこだわらずに次の問題にすぐに頭を切り替える)」の三つだ。五木氏のこの具体的提言は、弱さを持つごく普通の存在である我々を肯定し、そして明日を生き抜く知恵を示してくれる。徒に前向き主義を強いないこの言葉に、肩の力が抜ける思いの読者も多いことだろう。
柳のような生き方
最後に「簡単に明るい時代が来るとも思えない」という五木氏の、こんな言葉を引用してレビューを締め括ろう。曰く「(前略)自ら自分の生を投げ出すことなく生きていくためには、明るさとか、強さとか、そういうものだけでなく、柳のようにしなり、屈して、曲がることによって雪をふり落とし、春を待つ、という生き方もあるだろう」。けだし、名言である。
大坪 功
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五木 寛之(いつき ひろゆき)
1932年9月福岡県に生まれる。 早稲田大学文学部露文科に学ぶ。67年『蒼ざめた馬を見よ』で第56回直木賞、70年『青春の門 筑豊編』ほかで第10回吉川英治文学賞を受賞。『青春の門』シリーズは総数2000万部を超えるロングセラーとなっている。
81年より一時休筆して京都の龍谷大学に学んだが、のち文壇に復帰。小説のほか、音楽、美術、歴史、仏教など多岐にわたる文明批評的活動が注目されている。 |
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