定年後の「夫婦」考――
〜 男と女をテーマにリレー連載をおとどけします 〜
[文=大石 修一]
多くの妻たちは、夫の定年は、夫婦関係をリセットするチャンスだと捉えているようだ。妻たちのリセット願望はさまざまで、例えば家事から部分的な、または全面的な開放を望んだり、家のリフォームをすることで、気分を一新しようとしたりする。また起業を志すチャレンジ派もいる。いずれにせよ夫の定年を機に、自身のために何かをしようと考える妻は多数いるということだ。
一方、定年を迎える夫たちは、大企業や官庁に勤めていれば、結婚後30年間位の安定した収入が得られ、平凡な家庭を作り、家を持ち、夫婦が小さな楽しみを持つ、という図式が描かれていた時代に結婚した。生活環境や交流人脈まで「職場」という社会の中で限られていて、職場の規則と人脈に拘束されていれば自ら何かを選ぶための情報収集も必要なく、決断も要らない、いわば「囚人の気楽さ」に浸っていることができた。しかし定年後はゼロから夢や楽しみや、人間関係を構築しなければならないのだ。夫たちは、それに併せて、妻からのリセット願望も受け入れねばならず、相当な覚悟が必要なようだ。
「結婚は事業だ」というのは、作家・経済評論家の堺屋太一氏の言葉だ。全ての事業がそうであるように、実行への決意が必要であり、理念をはっきりしている必要がある。それができなければ、個人的魅力もない事業契約も持たない二人がただ同居しているだけとなる。これからは夫婦で積極的な楽しみを創造するか、それぞれが不干渉の楽しみを味わえる自分を持つのかのいずれかだろう。お金や住宅は夫婦親子の接着剤とならないことを肝に命じるべきである。幸福を求める「夫婦のかたち」は多様化していて、夫婦は語り合わずとも阿吽の呼吸でわかり合える、もうそんな時代はとうにすぎさったと思わねばならないだろう。
「夫婦の絆」や「晩年の夫婦愛」、それは、誰もが憧れる「幸せの形」ではあるけれど、手に入れるのはなまやさしいことではないようだ。
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