離婚 -- 見えない風景
男と女をテーマにリレー連載をおとどけします
[文=原 純]
〜夫から〜
仕事から帰るとわが家が空だ。妻の所持品すべてがない。ケイタイもつながらない。ほどなく義母からの電話。「あの子はわが家に帰ってきました。後は弁護士さんと話して下さい。」
妻は私に恐れを抱いていた。それは私の性格や、時折振るう暴力のせいだ。だから黙って家を出たと、弁護士から説明された。すでに他界した父が昔少々暴力的だった、とも聞かされた。
私は短気ではある、と思う。手をあげたことがないとは言いきれない。夜もそうだ。力づくで一方的だったと言われても、男たるもの当たり前、と思っていた。
もともと無口な女だった。だから会話が少ないのだ、夫婦なんてそんなものだとも思っていた。しかし妻は何も言わずに離婚の準備を整え、あの朝、私を見送ってから決行したのだ。
妻の本心は今もわからない。弁護士は言う「それが離婚の原因ですよ」と。
あの朝どんな挨拶をしただろうか。「行ってらっしゃい」と言われただろうか。
妻とはあの朝以来会っていない。
〜妻から〜
「行ってきます」と出勤した夫を黙って見送った。「さてと」。私は意を決した。もう、ほとんどの荷物は実家に送ってある。
機嫌が悪いと大声を出す、手を上げる。夜は自分勝手に求めてくる。いつの頃からか、荒々しい一面が耐えられなくなった。「怖い」。夫と暴力的だった父が重なっていった。
パソコンで「離婚」の情報を集めた。メールやチャットで様々な相談も重ねた。夫はほとんどパソコンができないので私は自由に検索を続け、約一年黙って準備をした。
子供たちは受け入れてくれた。大学生の長男はアパート暮らしへ、高校生の長女は 家に残るという。子供たちはすでに大人へと成長し、父親を嫌ってはいない。
生活は出来ている。でも後悔はないとは言えない。私の心に気づいてくれない夫が全て悪いと思っていた。でも今思う。もう少し会話が必要だったのではないか。亡父のことも話していれば、違っていたかもしれない。
夫とはあの朝以来会っていない。
(事実にもとづき構成しました)

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