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特集 いつまでも男と女 |
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| ◇男と女のショートショート1 |
声 |
あの人だれ? の声が聞こえた。同窓会会場。ドアが開いて現われたのは、彼だ。「おやおや、太ったね」。私も思わず苦笑いした。30年前の面影もない「かっこ悪い中年男」がそこにいた。
大学一年生、私たちはどこにでもいる学生カップルだった。ジーパンにTシャツがお決まりのファッション。ロックやフォークのコンサートに行った。親に内緒で二人で旅行もした。
3年後、私は企業に就職しOLに。彼は就職浪人という名の大学5年生になった。右肩上がりの経済成長期、同期の男性はバリバリと仕事をしていた。彼といえば、相変わらず。流行のイタメシやディスコに通う私は徐々に彼から離れていった。
あなたとは会わないと切り出した時、彼ポカンとしていた。別れた夜電話で「結婚しよう」と言ってくれた。私が聞いた彼の最後の声だった。
「隣すわっていい?」
その瞬間私の人生のページが一気に30年分戻ってしまうのを頭のてっぺんからつま先まで感じた。「いいよ」。私はそう答えるのがやっとだった。その声も口調も少しも変わっていない。外見のギャップはふっとんだ。この声の主は私の愛していた人。この声の中で私は幸せな時間を過ごしていたのだ。
でも私は平静を装い、お互いに当たり障りのない世間話をして、その場を別れた。
一週間後、名簿を片手に私は受話器をとった。あれ以来忘れられなかった。後悔か、懐かしさか。でも確かな気持ちが湧き上がっていた。名前を呼んで欲しかった。「ねえ、純子」と。…声が聞きたい…ダイアルを回した。
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◇男と女のショートショート2 |
メール慕情 〜夫の帰宅 |
今日、一カ月ぶりに夫が帰ってくる。彼が富山で暮らすようになってもうすぐ二年。母の介護でこの地を離れられない私を残しての単身赴任だ。
ピローン♪ スーパーのレジに並んでいた私の電話にメールが届いた。たぶん、夫からだ。結婚して25年になるが、離れて暮らすようになって初めて「饒舌」な夫を知った。
〈おはよう。今朝は快晴。そちらの天気は?〉〈今帰り。ちょっと深酒しました。反省。〉 毎日届くメールに最初のうちは「あの寡黙な人が!」と驚いたが、今では慣れてしまった。けれども時々、妙に面映いメールが混じっているので注意が必要だ。
〈家事って大変なことだったんだな。ありがとう。〉〈今日、花見だった。夜桜がきれいだったよ。来年こそはお前と見たい。〉 お見合い結婚だったせいか、はたまた本人の性格のせいか、これまで夫からそんな言葉をもらったことはなかった。遠く富山から届く不意打ちの名文(?)の数々に、涙目になるやら、噴き出すやら。外出先で読むにはちょっとした心の準備が要るのだ。
レジを済ませてメールを読んでみた。〈いま電車に乗った。お土産に鱒寿司を買ったので夕飯は準備不要。あ、でも手鞠麩の入った澄まし汁が食べたい。〉
夫が帰ってくる週末は、母の介護の当番は姉だ。早く家に帰ってお洒落しよう。この前買ったスカートがいいかも。足取りに合わせて弾む買い物袋の中で、手鞠麩がカサリ、と音をたてた。 |
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